キタノカオリ物語Part1
「何故キタノカオリは増えないのか?」
キタノカオリは2003年に優良品種に登録された北海道産のパン用秋まき小麦です。カオリというネーミングからもわかるように焼き上がりの香りが良く、甘みもあり、他の粉よりも黄色みがかったクラムも美しく人気の高い小麦粉です。栽培が始まってから15年以上経過していますが有名リテールベーカリーだけではなく、家庭製パンのお客様からも根強い人気があります。
人気がある一方で小麦生産者は苦労をしています。それは、キタノカオリが雨に弱く「穂発芽」というリスクを抱えているからです。穂発芽とは収穫直前に雨に当たった穂から芽が出てしまうことで、酵素活性が高くなり、でんぷんの分解が進んでパン用小麦粉としての商品価値が無くなってしまいます。地球温暖化の影響なのか「梅雨のないはずの北海道」でも近年では「蝦夷梅雨」という言葉も耳にするようになり、台風の上陸なども重なり北海道の農業は気候的に厳しい状況にあります。
このような状況でキタノカオリの作付けは年々減少しており、需要(パン屋さん)と供給(生産者)のバランスが崩れてきています。昨年あたりから一部の製粉会社ではキタノカオリの販売を終了しており、この傾向は今後も続くことが予想されます。弊社は小麦生産者グループ「チホク会」と直接栽培契約を結んでいるためわずかながら栽培面積を増やしています。しかし、多くのお客様のご要望にはお応えできない状況ですが、苦労をしてでもお客様の声に応えたいという熱意ある生産者と共にこれからも歩み続けていきます。

キタノカオリ物語Part2
「生産者は、なぜキタノカオリを作るのか?」
北海道で栽培されている小麦には春まき小麦と秋まき小麦があります。春まき小麦は雪が融けた後の4月中旬に播種(種まき)をし、8月上旬に収穫する小麦で代表的な品種に「春よ恋」や「はるきらり」があります。一方、秋まき小麦は9月下旬に播種をし、雪の下で越冬し、雪融け後にぐんぐん成長し7月下旬に収穫する小麦で、代表的な品種に「きたほなみ」や「ゆめちから」、そして、この物語の主役である「キタノカオリ」があります。一般的な農作物は、春に播種をして秋には収穫するので栽培期間は長くても半年くらいですが、秋まき小麦は播種から収穫までに10か月もかかります。栽培期間が長いということは、生産者にとっても手間がかかり苦労も多いということです。
例えば、2019年の1月から3月の十勝地方は例年に比べ雪が極端に少なく、本来は雪の下で越冬しているはずの小麦も寒風にさらされてしまい、生育に悪い影響が出ることが危惧されました。雪や雨などの気象条件は、どれだけ科学技術が進歩しても人間の力でコントロールできるものではありません。それに対応する農業技術が今後も進歩していく可能性は大いに期待されるところですが、生産者が、天候を常に気に掛けながらできる限り適応しようとする、そんな生産者の苦労はこれからもきっと続いていくことでしょう。
キタノカオリは前回(Part1)でもお話ししたように「雨に弱い」品種です。それは、「収穫直前に、一定条件の下で雨に当たると穂発芽をしてしまう」ということです。穂発芽とは、畑に立ったままの小麦の穂から芽が出てくる状態で、酵素活性が高くなり、でんぷんの分解が進んでしまい低アミロになってしまいます(注:低アミロースではない)。低アミロの小麦は粘度が低く、パンにするのが難しくなり小麦粉としての商品価値が無くなってしまいます。

このように、栽培の苦労も多く、リスクも高いキタノカオリをなぜ作るのか?
ヤマチュウと小麦の栽培契約を結んでいる生産者グループ「チホク会」の前会長・山川健一さん(芽室町)に話を伺いました。

「キタノカオリを栽培して苦労されていることは何ですか?」
山川さん:収穫期の天候による品質管理、天気予報を見ながら収穫のタイミングを決めること、ですかねぇ。

「苦労をしてでも栽培を続ける理由は何ですか?」
山川さん:(収穫を)待ってくれている実需者(パン屋さん等)の要望に応えたいからです。その人たちの、喜ぶ姿が見たいからですね。

「生産者として実需者に伝えたいことは何ですか?」
山川さん:近年、天候不順によりキタノカオリの品質が悪く、生産者として栽培を断念せざるを得ない状況にあり、大変貴重(希少)な品種になりました。大切に使って欲しいと思います。我々、生産者も少しでも多く収穫する努力をします。そんな苦労を消費者の方も噛みしめながら、パンを味わってほしいですね。

「生産者として喜びを感じるのはどんな時ですか?」
山川さん:自分たちが生産した小麦を原料とした美味しい商品(パン)を食べた時、なんとも言えない喜びを感じます。

年々、栽培が減少しているキタノカオリですが、弊社では生産者グループ「チホク会」と栽培契約を結び、雨をはじく資材を無償でお配りしたり、わずかながらですが栽培奨励金をお支払いして思いを抱いていただける生産者を応援しています。このことにより、令和2年収穫予定のキタノカオリの栽培面積を増やしています。 厳しい生産現場の状況を消費者の方にも理解して頂き、生産者をキタノカオリ生産に向ける思いを皆さんと共有したい。チホク会とヤマチュウは「つくる」を「食べる」のもっと近くに、というミッションを実現するためにともに歩み続けていきます。

キタノカオリ物語Part3
「キタノカオリの魅力とは?」
日本の食料自給率は38%(カロリーベース:2017年)。世界に目を向けるとアメリカやフランスのように100%を超えている国、90%台でほぼ自国で確保できているドイツ、本州と同じくらいの面積ながら60%台を確保しているイギリス。これらの先進国と比較して日本はかなり低い自給率ですが、昔から低かったわけではなく1960年代には約70%ありました。 それでは小麦の自給率はどれくらいあるのかご存じですか?答えは約14%です。これはうどん用が60%で平均値を押し上げている結果で、パン用に限るとわずか3%しかありません。別の表現をすると、100個買ってきたパンのうち国産小麦を使用したパンは3個だけということです。
これは良い悪いということではなく、日本国内で収穫される小麦の量も限られているため、全国の多くのパン屋さんはアメリカやカナダなどから輸入した小麦を原料とした小麦粉でパンを焼いているということです。最近では輸入小麦から国産小麦に切り替えるパン屋さんも増えてきていますが、十勝にはいち早く輸入小麦から十勝産小麦100%(国産、北海道産ではなく)に切り替えたパン屋さんがあります。昨年の8月、テレビ東京系で放送されている「カンブリア宮殿」で取り上げられた「株式会社満寿屋商店」です。2009年“麦音”の開店から十勝産小麦を使用し、現在では東京も含め全8店舗で十勝産小麦100%を使用しパンを焼いています。もちろん、この物語の主役「キタノカオリ」も使用しており、ホームページには以下のように記載されています。
「そして2006年、いよいよ国産小麦の使用が半数を超える時が訪れます。秋まき小麦“キタノカオリ”の登場です。寒冷地向けに開発されたこの新品種は、まさに十勝の気候と相性抜群。また、他品種とのブレンド利用にも優れているため用途も広がりました。」(満寿屋商店ホームページより抜粋) 満寿屋商店の十勝産小麦に対する想いはテレビだけではなく、「世界に一軒だけのパン屋」(野地秩嘉・小学館)にも紹介されていますので、是非ご一読ください。
また、満寿屋商店をはじめ十勝のパン職人たちが集まり2012年に設立した「十勝パンを創る会」で6年の歳月をかけて完成した「オドゥブレ十勝」もキタノカオリを100%使用しています。このパンの特徴は加水率115%(通常は60〜70%)で、キタノカオリの特徴である高い吸水率を最大限に生かし、みずみずしくもちもち感があり、甘みと旨みがあるパンになっています。

満寿屋商店の取締役製造管理部 兼 地産地消部 部長、そして十勝パンを創る会事務局長の天方慎治さんにキタノカオリの魅力について伺いました。

「満寿屋商店さんでキタノカオリを使い始めたのはいつ頃からですか?」
天方さん:2002年から使用を始め、めむろ窯の開店時(2006年)に芽室町産のキタノカオリを100%使用し、2009年の麦音の開店に向けてキタノカオリの使用率を増やしていき、その後の「ゆめちから」の登場で十勝産小麦100%への道ができました(麦音は開店時から十勝産小麦100%)。当初よりキタノカオリを味のベースとして注目して使い続けてきました。

「ほかの小麦と比較して違うところは何ですか?」
天方さん:圧倒的に違うのは、キタノカオリは焼き上がりの香りが良く、甘みも独特のものがあります。また、クラム(中の白い部分)が黄色みがかっているのも特徴です。

「キタノカオリへのお客様からの声はありますか?」
天方さん:十勝では品種へ特化してのリクエストはそれほどなく、十勝産100%への関心の方が高いように感じます。ただ、東京ではキタノカオリという品種に反応されるお客様も多く、ニーズや評価も高いように感じます。

「キタノカオリの魅力とは?」
天方さん:一番には美味しい!ということ。これは食べていただければわかりますし、自信を持っておすすめすることができます。 次に弊社はリテールベーカリーなので、外国産小麦を使用しているホールセールベーカリーと差別化をする意味で使い続けていきたいし、キタノカオリを使用したパンを作り続けることでその違いをアピールすることもできるのでこれからも使い続けていきたいです。

「消費者の方へこれだけは伝えたいという想いはありますか?」
天方さん:「弊社では5年くらい前から秋まき小麦の播種前に生産者さんの元を訪れ、キタノカオリの増産をお願いする活動を続けており、特にこの2年くらいはチホク会の皆さんにお願いしています。 地元の生産者の方が「美味しいパンを作るには美味しい小麦が必要だよね」と言って作り続けることに理解していただけて感謝しています。お客様が美味しいと言って食べてもらうことができるのも生産者の方と近くにいて一緒に取り組むことができるからです。

ヤマチュウのミッションは「つくる」を「食べる」のもっと近くに、です。

小麦をつくる生産者がいて、我々が製粉し、できた小麦粉でパンを焼きあげるパン屋さんがいて、そしてパンを購入するお客様がいる。キタノカオリもこの流れを結ぶ大きなキーワードの一つです。生産量は少ないですが、苦労してでも作り続ける生産者。その希少な小麦粉で美味しいパンを作り続けるパン屋さん。この「キタノカオリ物語」を通して少しでも皆さんに知ってもらうことができたら幸いです。

キタノカオリ物語Part4
「ヤマチュウとしての取り組み」
3回にわたりお伝えしたキタノカオリ物語。Part1ではキタノカオリの現状、Part2では生産者の声、Part3では実需者の声をお伝えしましたが、最終回となるPart4では弊社の取り組みについてお伝えします。
社内には営業部農産課のメンバーをリーダーに食品原料課、札幌営業所、東京営業所、上富良野事業所、カスタマーサポートからのメンバー、そして役員を含めた「キタノカオリプロジェクト」というチームがあります。先日プロジェクト会議が行われ、令和2年産の作付面積の確認(令和元年産よりもわずかですが増えています)や、令和3年産への取り組みについて熱い議論が交わされました。会議の詳細については割愛させていただきますが、キタノカオリに対する想いは生産者や実需者の皆さんに負けないくらい熱いメンバーたちです。
弊社の強みは以前にもお伝えした通り「チホク会」という生産者グループと直接栽培契約を結んでいることです。年々減少しているキタノカオリの収穫を維持し続けるためには現状を理解し作付けしていただける生産者が不可欠であり、その生産者に実需者の生の声を伝えることができるのもチホク会という生産者グループがあるからです。1990年にわずか15名の生産者により設立されたチホク会は今年で30年を迎え、契約生産者も当初の20倍の300名を超えました。今後は小麦を取り巻く環境もさらに厳しくなっていくことが予想されますが、弊社はこれからもチホク会と強力なタッグを組み、お客様へ「生産者の顔が見える小麦粉」をお届けしていくことに変わりありません。
キタノカオリ物語はこれで終わりますが、これからも皆様にとって有益な情報を発信していきますのでよろしくお願いいたします。

十勝☆夢mill製粉工場

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